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特集記事アーカイヴ Issue 2002.05-06

Fusion of Lyrical + Musical Creativity Beyond Existing Formats
Sunday Night Live from India Cafe

Text: 久西弘子 Hiroko Hisanishi

ハワイでも詩の朗読の催しは多い。アメリカ社会が生んだヒッピームーブメントの高波はハワイの島々のいたるところに押し寄せ、当時の世界を悲観した若者達がこぞって楽園ハワイに移り住んだのはつい何十年か前のことだ。ビートカルチャーをたっぷり含んだヒッピーカルチャーは、島の精神性と融合しその花を咲かせた。そのひとつにPoetry Readingが含まれていないわけがない。
現在のハワイでは復興運動により、ネイティブの高い霊性を帯びた美しい言霊であるハワイ語が、人々にはかかせない日常の生きた言葉になりつつあるが、そのハワイ語のみの朗読も行われている。また、ハワイにもPoetry Readingとは明らかに一線を引かれたSpoken Wordが存在する。ハワイのSpoken Wordは火の女神ペレの合図を待つかのように、今まさにアンダーグランドで噴火までの道のりを辿っている。そんなホノルルにあるいくつかのオープンマイクの中で、今一番の注目スポットである「インディア・カフェ」の久西弘子さんにその様子を語ってもらった。(左鳥話子)

最近このホノルルでオープンマイクはじわじわと話題にのぼっている。3〜4箇所のクラブやカフェで行われていて、そのなかのひとつがインディア・カフェだ。経営者のシュリーはローカルバンドQuadraphonixのメンバーとしても知られている。彼は私のボーイフレンドでもあり、彼の家族とともに私も店を手伝っている。

インディア・カフェは、南インド料理とマレーシア料理を出し、ホノルルではここにしかないと思われるDOSAI(ドセ)という、お米から作ったクレープ状の薄いパンケーキが美味。ドセにはカレーをつけて食す。日本からのお客さまに「ナンブレッドはありますか」とよく聞かれるけれど、ナンは北インドのものだ。インディア・カフェのお客さまはベジタリアンが多いが、ひとつのスタイルにこだわることはなく、様々な客層を持つアットホームなカフェなのだ。

ある日、カフェにとてもほっそりとした背の高い、ハワイ在住にしては驚くほど白い肌の男性が現われた。皮肉なことに彼の名はダーク(Dark)といった。 彼とシュリーはPoetry&Musicというイベントで知り合い、シュリーのバンド演奏でダークが詩の朗読をしたことがあるらしい。二人はあるビッグアイディアについて真剣に話し合っていた。シュリーが音楽を担当し、ダークがオープンマイクのホストを務めるというのだ。毎週日曜日にこのカフェでそれは行われるらしかった。

オープンマイクとは何なのか、その時の私には正直分らなかった。詩の世界に触れたことのない私にとって、どういう人達が集って来て、この場所でいったいどういう言葉が響くことになるのか不思議でならなかった。

オープンマイク初日、日曜日の夕方などたいていの人は、翌日の月曜を思いおとなしく家にいるものという予想は外れなかった。以前からスタートは午後6時からと宣伝していたにもかかわらず、これがハワイアンタイムというものか、結局8時過ぎからようやく人が集まり始めた。小さな島だけにほとんどが顔見知りばかり10人ほどの集まりとなり、そのうちの半数が発表した。

仕事をこなしながらタイミングを見計らいその様子を見ていると、詩を発表していた女性がいきなり溜息をつき、数秒おいてから「はあ、今日はなんて日だ」と両手を大きく広げ、般若のような顔をしながら叫び出した。彼女の詩はまるで日記のようにその日に起きた出来事を伝えていた。私は内心、これが詩なのか、と疑問に思ったけれど、彼女自身は感情を包み隠さず素直に吐き出しているようだった。それはそれでとても心地良く、私まですっきりした気分になった。人の詩を聞きながら、そこで思ったことをすぐノートに書き込む人達もたくさんいた。考えられないような未知の世界を朗読した男性もいた。彼の詩は半分も理解できなかったけれど、それは私の英語能力が足りないせいでもある。しかし彼の緊張した朗読中の姿は、言葉と彼自身の一体感に欠けているようにも見えた。しばらくすると黙り込み、その状態は聞き手も困惑するほどの長時間続き、「この空気をどうしたらいいの」と私が不安になった矢先、彼はまた読み始めた。前半とはかけ離れた内容で、いったい何を伝えたいのか理解に苦しんだ。失礼だけれど、聞き手の困惑した表情を見ている方が楽しかった。

次に、シュリーがインドの打楽器タブラを叩き出すと、エンジェルのような真っ白い服装の女性が、その空間を流れるリズムに同調して動くダンスが始まった。美しい彼女とその夜の月とが相まって、そのパフォーマンスは完璧だった。

毎週日曜日のオープンマイクの夜は、早めに来て食事をしながら詩を考えている人もいる。普通に夕食を食べに来るだけの人もいて、すぐに友達になれる憩いの場所となる。私はだんだんと日曜の夜が楽しみになってきた。毎週来るレギュラーもいるが、新しい人達もアンダーグラウンドならではの口コミ情報を聞いてやって来る。勿論、好きで集まって来るわけだが、この夜のために皆が時間を取っておくことは驚きだ。徐々にオープンマイクの空間は変化し、音楽と合わせてリーディングする人が多くなってきた。これがPoetry Readingというものなのだろうか。

ある男性によると、そもそもオアフでのPoetry Readingの歴史はパンクロック系のバンドから始まり、そこからチャイナタウンの「ツリーハウス」という店がポエトリーナイトを始めたのが最初だという。しばらくして場所は移動し、営業問題が起こる度にさらに移動しつつ広まったのだということだ。場所が変わる度にPoetry Readingの形も変化して行き、以前は無音の空間にスポットがあてられたクラシカルな雰囲気の朗読会だったが、言葉はもっと溢れ出し、個人的な語りの調子、話しかけるような詠みSpoken Wordの流れに変化していったのだという。

インディア・カフェのオープンマイクはSpoken Wordと呼ばれるものだといえる。ここでは三つに分かれる常連のグループが存在する。ひとつは詩を目的に来ている人達、ひとつは音楽が目的の人達、そしてもうひとつはその両方が目的の人達だ。年齢層も広いので、暖かい空気がカフェに漂う。音楽も詩の発表もアマチュアの人が多いが、必ずオリジナルの作品をという制限だけ設けている。始めは15、6人だった人数も、現在では最低40人くらいは集まるようになった。多い日は出入だけで100人以上ということもあった。今では発表のウエイティング・リストまで作らなければならないくらいだ。

このSpoken Wordは音楽的要素なしではさまにならないようにも思われているけれど、言語というのはパズルみたいなもので、一語ずつはめ込まれる言葉の破片は最後にどのような全貌を見せるのか、言葉が構築される様子はそれだけでも十分に存在感を持つのではないだろうか。

インディア・カフェでのオープンマイクは英語で行われているけれど、語学力の差や、英語の異なる表現をどう頭の中で翻訳するかという各人が持つ母国語のセンスにより、その人の中でどのように受け入れられ、感じられているかはまちまちだろう。

多くの人達は詩を介してゲイ、フェミニズム、戦争、宗教、シングルマザーなどについて語ろうとしている。ハワイの人達の豊かで暖かく、気取らない聞き手の包容力によりインディア・カフェのオープンマイクは統一感を持っている。アーティストでなくても、何か新しいものを得たいというバイブレーションに満ちている。画家やミュージシャンで、このオープンマイクに今までと違った方向性を示してくれるきっかけとなった人達もいる。新たな形態で何かを伝えたいという思いが、固執した表現の扉を開くのだろう。インディア・カフェのオープンマイクはこれからもっと大規模になっていくことだろう。ホストのダークからのメッセージはこうだ、"Fusion of Lyrical + Musical Creativity Beyond Existing Formats"(現存の形式を超えた叙情的かつ音楽的な創造性の融合)。


Hiroko Hisanishi 久西弘子
ニューヨーク在住後、1997年にシュリーとともにハワイへ移住。現在は彼と「インディ
ア・カフェ」のプロデュースに携わる。
India Cafe 2851-1 KIHEI PLACE HONLULU, HAWAII 96816
tel.(808)737-4699

ハワイではIndia Cafe以外に、以下のお店でリーディングが開催されています。(PCT編集部)
The Wave Waikiki 1877 Kalakaua Ave. Honolulu (808)941-0424
Sure Shot Cafe 1249 Wilder Ave. Honolulu (808)523-2326
Anna Bannana's 2440 S. Beretania Honolulu (808)946-5190

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